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  • チェット・ベイカーについて
チェット・ベイカーについて|ABOUT CHET BAKER
  • チェット・ベイカーの生涯と作品
  • 行方均(音楽評論家)
  •  チェット・ベイカーは1929年12月23日オクラホマ州イェール生まれ。

     少年時代からチェットは“女の子のような声”で歌っていたようだが、これを嫌った父親がトランペットを買い与えた。しかし間もなくチェットは近所の友達と遊んでいて前歯を失う。トランぺッターにとっては致命的な損傷だが、チェットはこれを個性に変えてしまう。高音を抑えた柔らかなトーンとスムースなフレージングだ。さらには、常に唇を閉じはにかんだようなその表情は、後のチェットを「ジャズ界のジェームズ・ディーン」と呼ばせることになる。

     天性なのだろう、40年代終わりには、チェットのトランペットには周囲の誰もが一目置くようになっていた。この頃最初の結婚もしている。チェットの生涯には絶え間なく女性が重なり合うが、彼女たちに対するチェットの態度には、常に憧れと蔑視、甘えと傲慢が同居する。既にマリファナでもさまざまな問題を起こし始めている。

     チェットの名を広く知らしめたのは、ジェリー・マリガン(バリトン・サックス)のピアノレス・カルテットだ。このグループで演奏した無名のバラッドは、チェットの生涯のレパートリーになる。『マイ・ファニー・ヴァレンタイン』だ。今やスタンダードの代表的ナンバーだが、当時ジャズ版は数えるほどしかなかった。リチャード(ディック)・ボックのパシフィック・ジャズ・レコードが制作した“歌手チェット”の第1作『チェット・ベイカー・シングス』(写真1)は、この曲のチェット最初の(そして最高の)ヴォーカル版を収めている。また、これも劇中最も印象に残る〈アイヴ・ネヴァー・ビーン・イン・ラヴ・ビフォー〉も同アルバムに収められている。

     ジャズ専門誌「ダウンビート」の人気投票で1位になったチェットは、54年5月ニューヨーク・デビューを果たす。しかもニューヨーク一の名門クラブ「バードランド」の丸1か月間公演で、前半がディジー・ガレスピー、後半がマイルス・デイヴィスとのガチなダブルビルだ。この時、チェットはひどく打ちのめされたのだろう。

     65年の『ベイビー・ブリーズ』(写真2)は、チェットが再起をかけた作品のひとつだ。トランペット演奏に加えて〈ボーン・トゥ・ビー・ブルー〉他数曲が歌われている。いかに陰惨な状況も、天性に守られたチェットの美しい音楽を奪うことはできなかった。それがチェットのいちばんの悲劇だったかも知れない。批評も好意的だったが、しかし同作が売れることはなかった。

     背水のチェットが頼ったのが、パシフィック・ジャズのディック・ボックだ。チェットらウェストコースト・ジャズ勢を育て、彼らと共に育った同社は、65年に大手のリバティに身売りしたが、ボックは制作責任者の立場にとどまっていた。かつて大ヒット・レコードは生んだものの、間断なく金をせびり続けたこのミュージシャンにボックは救いの手を差し伸べる。当時流行のマリアッチ・ブラスと無理やり組ませた4作などは、チェットにギャラを渡すための録音と言ってもいい。

     67~73年半ば、“ジャズ界で最も悪名高いジャンキー”にほとんど語るべき活動はないが、1年間のメタドン治療後の73年秋チェットはニューヨークへ向かう。ディジー・ガレスピーがブッキングしてくれたナイトクラブは「バードランド」ではなく「ハーフノート」だ。1959年以来のニューヨーク出演だった。

     同じ時期に大編成のバンドを率いて録音した『枯葉』(写真3)は、チェットが母国で残した“最後の傑作”だ。チェットにとってアメリカは今や憎悪の対象となり、ヨーロッパこそ自由の象徴だった。75年代半ばには活動の拠点をヨーロッパに移し、麻薬絡みの様々なトラブルを起こしながらチェットは演奏を続ける。しかし1988年5月13日、オランダのアムステルダムのホテルの窓から転落死。享年58歳。事故死とも自殺とも他殺とも言われる。

    参考文献:ジェイムズ・キャビン著/鈴木玲子訳『終わりなき闇~チェット・ベイカーのすべて』(河出書房新社2006年)

  • 1.『チェット・ベイカー・シングス』
    2.『ベイビー・ブリーズ』
    3.『枯葉』
  • サウンドトラックについて
  • チェット・ベイカーが愛したスタンダード曲やカナダを代表するジャズ・ピアニスト、 デヴィッド・ブレイドの曲と演奏を中心に収録。

    デヴィッド・ブレイド 生年月日:1975年カナダ・ハミルトン生まれのジャズ・ピアニス トでジュノー賞、最優秀トラディショナル・ジャズ・アルバム賞の受賞歴があるカナダを 代表するピアニスト。

  • サウンドトラック:ワーナーミュージック・ジャパン

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